henry/平次

日常に隠れた小さな事件を綴ります。

平次 アメリカに赴く

(この物語はフィクションです)

大学はラクに単位が取得できる授業を真面目に受け、4年で卒業できた僕は2流電機メーカーに就職した。歴史のあるメーカーで、ほとんどの人は知っているブランドだが、会社の資金は乏しく、事業所が全国の僻地に散らばっている、働く人からすれば残念な会社だ。

 

幸いにも僕は大阪の本社に配属されたので、僻地生活を避ける事ができたが、入社して4年が経ち、僕は転職したいと思うようになった。せめて年間の手取りが300万を超える生活をし、オンボロの寮から出たい。そんな理由だった。転職活動は割とスムーズに進み、丸の内に本社があるメーカーとの最終面接が終わった翌日に、上司から突然呼び出しを受けた。

 

「平次君、ここ2年で何度かアメリカに応援出張に行ってもらったんだけど、これからは駐在員として赴任する気はある?」

私の人生の中で”青天の霹靂”という言葉を使う機会があるとすれば、まさしく今だろう。噂では駐在員になれば給料は倍になると言うではないか。これでカネに困らなくなると思った私はその場で返事をし、半年以内にアメリカへ飛び立った。

 

さて着いてまず最初にするべき事は家探しである。どうやら当社の駐在員は現地の日系不動産と物件探しをする事が多いみたいだが、私は日本人が個人経営している槙原不動産(仮称)のお世話になる事になった。私が槙原さんと一緒に物件探しをしてくると言うと、同僚は皆「あっ....(察し)頑張ってね。無事に帰ってきてね...」と言ってくるので少々不安になった。

 

待ち合わせ場所で緊張しながら槙原さんの到着を待っていたが、実際に会ってみると少しおとなしめのマダムという印象で、なぜ同僚があんなリアクションをとったのかがサッパリわからない。しかし槙原さんが運転するクルマが急発進し、なんとなく理解した。

 

槙原さんの運転が超絶に荒いのである。プリウスがあんな機敏に急発進し、急ブレーキができる事を知る良いキッカケになった。一体なんでこんな運転になるんだろう...と私はおそるおそる槙原さんの足元を覗いてみた。

 

なんとAT車なのに両足で運転していたのである。常時左足がブレーキにセットされているではないか...F1ドライバーは左足でブレーキするって聞いた事はあるが...

 

こんな調子で僕の家探しが始まった。